千枚岳南尾根・荒川三山・赤石岳(南ア赤石)

MR144 千枚岳南尾根・荒川三山・赤石岳(南ア赤石)

date 1982/10/10-13
コース 畑薙橋手前〜椹島〜蕨段〜千枚小屋〜千枚岳〜悪沢岳〜中岳〜荒川前岳〜冬ルート〜大聖寺平〜荒川小屋〜2694コル〜荒川小屋〜大聖寺平〜赤石岳〜椹島夏道分岐〜夏ルート〜冬ルート入口〜ラクダのコブ〜小赤石岳〜椹島夏道分岐〜夏ルート〜赤石小屋〜椹島〜畑薙第一ダム
実働 第1日:7h55m、第2日:8h40m、第3日:7h15m、第4日:5h35m、計:29h25m。
メンバー すうじい、カニ
概要 冬合宿第一次偵察山行、降雪も交え晩秋の赤石山脈核心部縦走。
行程 【10月10日】 快晴のちガス
静岡=畑薙橋手前5:15→休(10m)→休(10m)→8:15椹島9:00→奥西河内徒渉点9:45→休(10m)→12:00小石下12:15→13:00清水平13:10→休(10m)→15:10駒鳥池15:20→16:00気象通報16:25→16:35千枚小屋(泊)

【10月11日】 雪のちガス
千枚小屋7:20→9:20千枚岳9:30→11:00悪沢岳11:10→12:50荒川前岳13:05→大聖寺平15:45→16:00荒川小屋16:20→16:40 2694コル17:05→17:20荒川小屋(泊)

【10月12日】 快晴
荒川小屋6:10→7:00ダマシノ平7:10→小赤石岳8:00→8:20赤石岳8:40→9:05水場9:25→9:50冬ルート入口10:00→11:50 2950P 12:00→12:25小赤石岳12:30→13:00水場13:10→13:50冬ルート入口14:00→15:00赤石小屋(泊)

【10月13日】 快晴のち晴
赤石小屋6:20→休(10m)→9:10椹島9:30→休(10m)→休(10m)→12:45畑薙第一ダム13:00=井川
記録  1982年度冬山合宿第1次偵察山行逆コース隊の、カニによる山行報告書の内容を、若干の修正を交えて、ここに転記させて頂くことにする。

【10月10日】 快晴のちガス
 久々の南アである。それだけで、嬉しくなってしまう。しかも、紅葉の時期だ。

 タクシーを降りると、空が白んでいた。スーパー林道の惨状を考えると、一体どこまで車で入るか、心配だったが、畑薙橋のほんの手前まで、タクシーは入ってくれた。そこからは、左岸がザックリと抉り取られ、道幅は、30cmほどの所もあった。流出した橋の代わりの、モッコ渡し様人力ロープウェイに揺られて、対岸へ。そこより椹島までは、林道の大破は無かった。

 次第に、日が高くなる。山腹の、赤味を帯びた箇所が、広がって行く。期待したほどには、黄・紅葉は色付いていないが、いかにも南アらしい、広々とした山腹を、久し振りに見た。池ノ平の西側の赤薙、ボッチ薙は凄まじい岩石の堆積で、即製の扇状地を作っていた。聖沢を左に見、本流と別れて、水の澄んだ赤石沢沿いに、しばらく歩く。聖、赤石の頭が見えた。久し振りだな。

 椹島で、おばさんに「奥西河内は徒渉」と聞き、寒くなった。順コースのTgパーティとコールを交わして別れる。徒渉するまでが、えらく悪い。徒渉した後も、かなり悪い。どちらも、川岸が削られたためだ。徒渉そのものは、丸太のお陰で、踝程度であった。

 登山道が尾根に乗ると、間もなく木賊よりの林道と出会う。以後は、清水平の少し上まで、登山道はズタズタに寸断される。一応道形は残っているが、実に腹立たしい。山腹を削り取る行為に対し、TKパルプは何とも思わないのだろうか。とまれ、山腹を這う蛇は、年々長くなって行く。小石下で、登山道は伐採後の茨薮へ突入。ヒデエもんだ。この伐採地では、寒冷地における苗木の成長を試験していた。清水平では、林道端に、ゴム管が引いてあり、ゴム臭い水が飲めた。

 蕨ノ段手前で、ようやく林道と別れられた。本来この尾根は、実に気分が良い所なのだ。右手には笊ヶ岳、左手には悪沢岳・赤石岳が見えてね。人気は少ないし。この人気の少なさは、つまり、人為的なものの少なさである。ゴミは勿論、赤布・テープ・道標も、やはり少ない方が良い。去年は、ちょっと、テープを貼り過ぎたな、という思いが頭を掠める。

 ここの尾根で、特に目立つのはシラビソである。他だと、白い幹の中に、黒い幹、岳樺などが混じるのだが、ここは真っ白だ。しかも、木の密度が高い。木と木の間も、全て白い樹肌である。シラビソの純林という極相に達したらしい。サルオガセが殆ど見られないのも、珍しい。

 さて、樹林にポッカリ穴があいた蕨ノ段、駒鳥池を過ぎ、天気図を取って、千枚小屋に至る。尾根上には薄い踏跡しか無かった。Tg隊との交信も、うまくいった。

【10月11日】 雪のちガス
 起きてみると、雪である。驚いた。ぼたん雪が、ずんずん積もって行く。こういう天気は、テープが着かなくて困る。紅葉もどこへやら、モノクロームの世界に、一変してしまった。

 千枚小屋より、尾根上を千枚岳へ登る道はハッキリせず、夏道を辿る。やがて、千枚岳山頂だ。見覚えのある岩が立っている。稜線に出ると、雪山ならではの緊張感が、グッと来た。久々の降雪だからだろうか。岩稜を下り、ホッとすると、ガスの切れ目から蝙蝠岳が見えた。端正な三角形も真っ白だ。3032Pを登り、巨岩地帯に入れば、悪沢岳もすぐだ。雪を纏った岩塔は、悪魔の住処さながらだ。

 悪沢岳山頂で交信した後、草が一本も見えぬ岩稜を下る。6人パーティが登って来た。何となくホッとした。この頃から、雪は殆ど止んで、風だけになった。2年前、感動的な一時間を過ごした中岳(魚無河内岳)を過ぎ、荒川前岳で三度目の交信。Tgパーティは、小赤石の3030Pにいるそうだ。彼らは、あと小渋川方面へ下るだけ。こちらは、いよいよ核心部の岩稜下降である。

 始めは、広い平らな尾根である。そのうち、左(東)からガレが迫って来て、右手の大崩壊壁との間に挟まれ、非常に狭い尾根になる。三峰岳の南側のような感じだ。それでも、取り立てて悪いという程ではなかった。ところが、一本、一本と左に尾根が分かれて行くに連れて、次第に傾斜が増し、踏跡は分散する。

 どうしようか・・・。と、左の尾根で、カモシカが、ピーピー鳴きながら、一目散に降りて行く。急な岩稜を、良く下向いて走れるもんだ。ある程度駆け下ると、立ち止まってこっちを睨み付けている。貫禄!

 岩峰を左右から巻いて下った後は、ようやく緩やかになる。安心して歩ける。県境の東側の尾根に乗り、最低鞍部で休憩。その後、大聖寺平まで稜線を伝い、夏道トラバース道を駆け下って、荒川小屋に駆け込む。丁度雨が強くなり、ギリギリセーフであった。小屋で天気図を取った後、2694コルへ登り返し、Tg隊と交信する。無事、広河原小屋に下りたそうだ。

【10月12日】 快晴
 快晴だ。青空を背に、カールを従えて、悪沢岳の何と高いことか。思い出すなあ、二年前・・・トラバース道は、軽くガスがかかって(そうだ、これこそ朝靄だ)、その中を、朝日を浴びて、すうじいが歩いて来る。ここまで場面が揃うと、すうじいでも、なかなか絵になるね・・・。

 大聖寺平から広河原への道を確認したあと、ダマシノ平でTg隊と最終交信。ガレガレの急斜面を登り詰め、3030Pに至る。悪沢岳と中岳(魚無河内岳)の間から、真っ白な間ノ岳が見える。お馴染みの中ア、そして槍・穂。

 小さな岩峰を幾つか越え、小赤石岳に至る。東尾根上部は、交信で聞いた通り、急である。そこで夏道を下り、空身で尾根を登り返すこととした。

 赤石岳山頂は、あの堂々とした木柱の代わりに、測量用標柱が立っていた。昨年、深南部縦走時、測量していたっけな。展望はさすがである。鳳凰三山(オベリスクのみ)、甲斐駒、仙丈、間ノ岳、一段低い塩見、南には聖、兎、中盛丸山、上河内岳、仁田岳、光岳、東に笊、布引山・・・。

 さて、山頂を辞して、椹島夏道分岐から、夏道通しでカール底を下った。よくもこんな急な所に、道を付けたものだ。尾根を一つ越して、奥西河内源流の水場で休憩。水の清さに、思わず足を止めたのだった。本当にガラガラの谷底である。半円形の空。

 夏道を下ると、二箇所ほど稜線に近付いて、三箇所目に「冬ルート」の道標があった。ここに荷を置いて、空身で東尾根を登る。しばらくは、酷いハイマツ薮。やがて踏跡が明らかになって、尾根も細くなって来る。所々両側がガレて、ひどく細い場所も数回通過し、最後にザレザレの斜面を一気に駆け登り、小赤石岳へ。こんな所、ザック背負って下るのは、大変だったろうな。

 椹島夏道分岐から、再び夏道を下る。荷を背負い、赤石小屋へ向かう。小屋の上の「米(氷?)の踊り場」という所で、赤石小屋の小屋番に遭った。小屋の片付けに来たそうだ。

【10月13日】 快晴のち晴
 赤石小屋には、熊ノ平の小屋番も来ており、赤黄赤のテープが、TKフォレストに知られるところとなった。赤石小屋番に、椹島から井川駅まで、車に乗せて貰う口約束をしたのだが、樹林帯のマーキングに手間取り、椹島に下りた時には、二人の姿は無かった。

 結局、午後1時のバスを目標に、16.9kmの林道競歩大会になってしまった。入山時より大分色付いたように見える山々を横目に、ひたすら歩いた。大吊橋で少し休み、ダムサイトが見えた時には、ホッとした。畑薙でビールを飲み、良い気分でバスに乗り込む。遠ざかっても、遠ざかっても、青薙山が見えていた。昨年夏の、あのガレでの恐怖が頭を掠めた。

アルバムT:畑薙橋跡〜千枚岳〜荒川前岳

アルバムU:荒川前岳〜赤石岳〜東尾根

概念図

MR147_ 赤石岳・荒川三山縦走(南ア赤石)'82-10〜11

MR154_ 赤石岳・荒川三山縦走(南ア赤石)'82-12〜'83-01

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