畑薙大吊橋から光岳・聖岳・赤石岳・悪沢岳(南ア)

date 1980/9/27-10/3
コース 畑薙大吊橋〜ウソッコ沢小屋(泊)〜茶臼岳〜光小屋(泊)〜光岳〜仁田岳〜茶臼岳〜茶臼小屋〜上河内岳〜聖平(幕営)〜聖岳〜百間洞山ノ家(泊)〜赤石岳〜荒川小屋(泊)〜悪沢岳〜千枚岳〜二軒小屋(泊)
実働 第1日1h45m、第2日9h05m、第3日5h45m、第4日3h07m、第5日7h20m、第6日5h、第7日5h50m、計37h52m
メンバー すうじい、ハマ、カーリー、エビ、カニ(肥後ブラザーズ)
概要 畑薙大吊橋から光〜荒川三山縦走、連日秋晴大展望。
行程 【9月27日】雨
静岡=畑薙大吊橋13:25→ヤレヤレ峠14:10→14:50休15:00→15:20ウソッコ沢小屋(泊)

【9月28日】晴のちガス
ウソッコ沢小屋6:15→7:10中ノ段7:20→8:05横窪沢小屋8:20→9:10休9:25→10:05休10:30→11:10茶臼小屋11:30→12:05茶臼岳12:30→仁田池12:40→希望峰13:05→13:20休13:50→2352P14:20→14:40休15:00→易老岳15:20→15:50ザラナギ16:05→三吉平16:45→16:55休17:05→17:40休18:00→18:15水場18:35→18:55光岳小屋(泊)

【9月29日】快晴のちガス
光岳小屋6:55→7:05光岳7:30→7:40光岳小屋8:20→8:30イザルガ岳8:45→8:50センジガ原9:05→9:10水場9:15→9:55 2228P10:05→10:55易老岳11:20→12:15希望峰直下コル12:40→13:25希望峰13:35→13:50仁田岳14:10→14:35希望峰14:50→茶臼岳15:45→15:50休16:25→16:40茶臼小屋(泊)

【9月30日】快晴のちガス
茶臼小屋7:20→7:35稜線7:45→8:35竹内門8:45→9:20上河内肩9:35→9:40上河内岳11:25→12:10休12:20→12:55聖平露営地(幕営)

【10月1日】快晴のちガス
聖平露営地4:30→5:20休5:40→小聖6:15→6:30前聖直下コル6:40→7:40前聖岳7:45→8:00奥聖岳8:15→8:30前聖岳9:10→9:50聖・兎コル10:10→11:00兎岳11:20→小兎岳12:00→12:10小兎・中盛丸山コル12:45→中盛丸山13:20→13:30百間洞山ノ家分岐13:40→14:00大沢岳14:05→14:20分岐14:25→14:55百間洞山ノ家(泊)

【10月2日】快晴のち晴
百間洞山ノ家5:10→5:15百間洞5:40→6:45 2628P付近6:55→百間平7:25→7:50休8:15→9:05 3000M付近9:15→9:50赤石岳10:50→11:15小赤石11:25→大聖寺平12:05→12:30荒川小屋(泊)

【10月3日】快晴
荒川小屋3:20→3:40小沢4:05→4:55荒川前岳直下トラバース5:05→5:20荒川中岳6:25→7:30悪沢岳8:15→9:00千枚岳9:20→10:10休10:30→マンノー沢ノ頭10:40→2271P11:10→11:20休11:45→12:40二軒小屋(泊)

【10月4日】
二軒小屋8:00=リムジンバス=9:50畑薙第一ダム10:30=静岡
記録  学生諸君の参加を募り、南ア南部の秋山大縦走を企てた。出発前日のガソリン購入が間に合わず、学生寮仲間から譲り受けるが、3Lしか調達できず、ガソリン不足の原因となった。前夜の準備が大変で、睡眠時間1時間であった。

【9月27日】雨
 全員寝不足のまま、吉野屋の牛丼弁当を持って、東名バス静岡行始発に乗り込む。居眠りしているうちに静岡駅着。タクシーで、雨の中を畑薙へ。林道工事の事務所のオッサンに頼み込んで、大吊橋まで車を入れさせて貰う。静岡でバスにメガネを忘れかけたハマは、大吊橋前で、タクシーのトランクから、「確認、確認」と言いつつ、余分なもの(タクシー運転手の書類)まで降ろしてしまう。気付いたときには、既にタクシーは去った後。仕方なく、登山届けのポストに入れておく。運転手さん、ゴメンナサイ。

 ここで、ブドウパンの昼飯を食べた後、ダム湖の濁った水面を見下ろしつつ、土砂降りの雨の中、大吊橋を渡る。ザックの重いすうじいが、足を滑らせかける。おお怖い。全員寝不足で疲れている様子なので、予定の横窪沢小屋まで行くのを止めて、一つ手前のウソッコ沢小屋に泊まることにする。小屋が立派だったことにもよる。

【9月28日】晴のちガス
 一晩ぐっすり眠って寝不足を解消し、みな元気になったようだ。横窪沢小屋を過ぎてから、靴擦れの痛みを訴える者が出たので、テープを足に貼る。カーリーなどは、ベタベタ貼りまくる。茶臼小屋に近づくと、秋色に包まれた茶臼岳が、ガスの合間に見える。あたりの紅葉、黄葉も良い感じで、小屋付近は明るい秋の別天地だ。青い空と黄葉の下、写真を撮り、水を汲む。しかし、今日のノルマは光小屋までだ。後ろ髪を引かれる思いを振り切って、更に前進する。

 茶臼山頂で、冨士や聖が見え、写真を撮る。下って仁田池の辺りにある、仁田池小屋は崩壊寸前。更に下って、希望峰とのコル付近で、カモシカと遭遇。その後、カーリーが傘を一本紛失したことに気付くが、発見できず。易老岳を経て、ザラナギで天気図をカニに任せ、他の四人で先行する。途中迷いやすいピーク(2228P)にケルンを積むが、カニは気付かず、少し迷ったらしい。三吉平の先で、時々笛を吹いてカニを待ったが、なかなか現れない。チョコを食べた後、笛を吹いて耳を澄ますと、微かに笛の応答があり安心する。沢状の道を登るうち、次第に暗くなり、みなバテ狂ってくる。

 かなり登ったところで、水場が無いと諦め、今夜の水汲み決死隊のことを考えながら休んでいると、カニがやっと追いついた。エビが水を哀願したが、すうじいは今夜の水無しビバークの可能性を考え、非情にも「我慢しろ」と言う。ここからついにヘッドランプをつけて進むが、トップを歩いていたカニが、突然、「水だ、水だ、水の流れとるバイ」と叫ぶ。全員、足元の流水に目を見張り、狂喜する。今夜の、光小屋の水場へ向かう「決死隊」を覚悟していたすうじいとハマが、「助かった」と胸を撫で下ろしたことは、言うまでもない。昨日の大雨のお陰であろうか。水飲みも解禁となり、水を全部で16.5Lポリタンに詰める。ここから、すうじいがトップとなり、やっとの事で光小屋を発見する。

【9月29日】快晴のちガス
 さすが2500mを越す光岳小屋ゆえか、昨夜はかなり冷え込んで、みな寒かったようだ。目を醒ますと、夜明けで、朝食後、朝陽を浴びながら、光岳をピストンする。光山頂付近から見る、イザルガ岳と富士山の日本画的美しさは、胸を打つものがある。山頂の木によじ登って、中ア・北アを撮る。聖・赤石も立派だ。昨日の、茶臼からの長い行程も眺められる。

 小屋に戻って、ザックを背負い、センジガ原へ。イザルガ岳をピストンする。禿げた、礫々の平らな山頂は、360度遮るもののない展望で、快晴の下、山行初の山頂らしい山頂だった。人気は全く無く、静かで明るい大自然の真ん中にいる、我々五人。駿河湾と伊豆半島、冨士、南ア主脈、北ア、中ア、南ア深南部・・・。センジガ原に戻り、しばし静寂の中、青空を仰ぐ。

 昨日の水場で感謝しつつ水を汲み、グングン下る。昨日の苦闘がウソのようだ。2228Pで小休後、一気に易老岳へ。そこからの下りで、カニ以下四名が、面平方面へ下りかけ、「オイ、オイ、何処へ行きよっとか」と慌てて呼び止めるすうじいであった。希望峰手前のコルで、カーリーが鼻血を出し、休憩を延ばす。キツツキのドラミングも聴かれる。

 希望峰にカーリーを残し、四人で仁田岳へルンルンハイキング。道々、コケモモの実をたくさん採って食べる。味をしめたカニとハマは、何の実でも、片端から口に入れていた。カニが言うには、「ナナカマドの実は、死ぬほど渋かった」そうだ。冨士の眺めが素晴らしい。希望峰に戻り、次第に稜線沿いにガスが迫る。茶臼岳を過ぎたところで、気象通報の時間。寒さに震えながら作業する、天気図係カニを、全員で囲む。茶臼小屋に下る分岐付近で、ライチョウ三羽発見。みな喜ぶ。

 茶臼小屋の夜、歯を磨いていたハマとすうじいが、夜空を飛ぶ不思議な灯を見た。ハマは、「UFOばい、UFOばい」と叫びつつ、カメラを取りに小屋へ駆け込み、カニを連れて出てくる。飛行機の灯のようだったけど。

【9月30日】快晴のちガス
 朝、日の出と富士を、小屋の窓から撮る。稜線まで登り返すと、上河内岳と聖岳が目前に迫り、聖の南面の山襞がくっきり見える。亀甲状土で知られる舟窪状地に、一面の霜が降りている所を通過するが、亀甲状土の実体は判らなかった。竹内門という岩の下で小休した後、上河内岳直下の肩でザックデポして、上河内岳をピストンする。

 上河内岳山頂でABCビスケットとフルフル(粉末ジュース)を味わう。畑薙湖と大無間・小無間、聖岳が印象的だ。今日は、聖平までと決めているので、山行で最も軟弱な一日を十分に楽しむ。下りはルンルン楽チンで、景色を楽しみながら下ろう。ここ数日の寒さのためか、ナナカマドの紅葉が散った後で残念だが、紅い実だけでも十分秋を感じさせる。下り続けるうち、カニらがキジを発見。「一日一動物」という、ハマの提唱する標語が飛び交うようになる。熊らしき動物の足跡もあったりして、ヒヤリとする。

 聖平まで下って小屋に着き、ガソリン不足に対処するため、薪を集め始めたところ、ナント、人間が一人現れたではないか。すかさずTが、「今日の一日一動物は、コレだったとばいねエ」と言い、みなが「そぎゃんたい」と答える。慌てて薪を四方に放り投げ、知らんぷりを決め込むうち、続々と人が現れて、小屋に十数人入った。そこで、今夜は幕営することにする。テントに四人。すうじいは一人ツェルトに入る。腹が減るので、夜食にABCビスケット。このころから、エビがさかんに「エビシテー、エビシテー」と連発するようになる。テントの四人がいかなる一夜を過ごしたかは、定かではない。

【10月1日】快晴のちガス
 今日は、今回山行初の3000m峰聖岳を越え、百間洞まで進む予定なので、早起きして撤収する。朝食抜きで出発。1ピッチ行ったアザミ畑の先で、朝食のクラッカーを食べる。このころ、夜が明ける。前聖へは、ザレザレの道で苦しい急登だ。

 前聖でザックデポし、奥聖を往復する。昨日よりも更に晴れ渡っている中、赤石・悪沢・鳳凰etcが印象的だ。前聖に戻り、フランスパンとコチンコチンのバターを囓る。冷たい風が強く吹き、身体がかじかむ。すうじいとハマが頭痛。寒いので、早めに切り上げて、兎岳へ向かう。この下りが、ザレザレで悪い。左側は、聖の西壁で、切れ落ちている。みなビビルかなと思いきや、意外としっかり下って行く。

 コルで大休止。ハマが頭痛を訴え、すうじいも眼痛・頭痛(寝不足による高度障害と紫外線による眼痛か?)。兎岳で、すうじいは三角点ハントを断念する。兎から一旦下って、小兎への道は、昔話の兎と亀の競走の舞台になりそうな、わりと緩い登りでルンルン気味。小兎・中盛丸山コルで、バカ話しながら、ABCビスケットを食べる。百間洞山ノ家分岐に荷を置いて、大沢岳へのピストンでは、コケモモの実を食べることに気を奪われる五人であった。

 百間洞付近の黄葉も、なかなか良かった。すうじい頭痛のため元気なく、仕事を人任せにしてしまう。天図係のカニは、このところ「ああ大丈夫ばい、明日もよか天気たい」としか言わない。

【10月2日】快晴のち晴
 ガソリン不足のため、昨日から、朝食はラーメンを止めて行動食に切り替えているので、のろまな我々にも、早立ちが出来る。百間洞に沿って登って行く。振り返れば、北面に少し雪の着いた聖が、赤く染まっている。ザレザレの稜線に出ると、仙丈・塩見・間ノ岳etcが目に入る。この付近で、ライチョウ二つがいを発見。百間平に足を踏み入れると、朝日の輝きが眩しい。一面に雪が、薄く積もっている。その向こうに、赤石岳が巨大な姿を見せる。別天地じゃ。ここを、通り過ぎてしまうのは惜しい。少し登った小ピークで、クラッカーを食べる。百間平・大沢岳・中盛丸山・兎・聖方面を眺める。ここから、ガレガレ岩々の上を通り、2ピッチで赤石岳山頂に着く。

 山頂付近には、数日前の雪が、しっかり積もっており、少し囓ってみる。ジェット機が上空を飛ぶ。ヘリも山頂上空を飛び回ったので、我々は手を振った。カニの提案で、ガソリン不足のため朝食メニューから消えたインスタントラーメンを、生かじりすることになった。すうじいはイヤだったけど、他の空腹の三人が同調したのだ。粉末スープを麺に振りかけ、囓るのだ。そこへ、TITのワンゲルがドヤドヤと登場し、とても恥ずかしかったが、耐えて食べる。次に、雪にフルフルをかけ、かき氷にして食べる。冷たくて腹が痛むが、無理して食べた。さすが赤石岳、人が多い。聖平までは、一人の人間にも会わなかったことを思えば、差は大きい。

 一時間ほど山頂にいた後、北へ下る。小赤石まで半ピッチ、そこから大聖寺平まで1ピッチ下り、荒川小屋へ向かう。小屋付近の秋景色はなかなかで、荒川前岳の南西壁の悪絶さが、日に映えてすごい。

 小屋に12:30に着いたので、テントとツェルトを日に干す。次第に、小屋の人口が増してくる。TITワンゲルを含め、20人くらいか。予備日まで使えば、十分塩見まで行けそうではあるが、安全第一に考えて、明日は荒川三山〜二軒小屋ということに決定する。ガソリンも十分ということになり、カニのコッヘルに三杯分、思いっきり甘いココアを作って、腹一杯飲む。全員気分が悪くなって、ギブアップ。

【10月3日】快晴
 2:10起床。パッキングしていると、TITの下級生の連中が、コンロで飯を炊いたり、戸を開け閉めして音を立て、入り口付近に寝ていたオッサンに怒鳴られる。「コラーッ!、うるせーぞー」しまいには、「いいよ、いいよ、もっとうるさくしろ、オメエラのおかげで、良く眠れたわい」と言っている。それをしり目に、我々は着々と荷物をまとめて、3:20に小屋を出、ヘッドランプ山行。少し登った水場で、ABCビスケットの朝食を摂る。そのころ、TITも動き出したらしく、幾つも灯が見える。荒川前岳直下のトラバース中、岩陰で小休止。冨士のシルエットと空の微妙な色に、目を見張る。

 荒川中岳で日の出。ど快晴で、朝陽の当たる山々を、全て写真に撮ること蜿蜒1時間。北アの連なりに、立山・剱の姿を見出したすうじいは大喜び。しかし、夜明けの風は冷たくて、手足もかじかむ。兎に角動こうと、悪沢岳(荒川東岳)へ向かう。そこは、今回の山行の最高峰3141mだ。山頂の岩陰で、またラーメンの生かじりをする。

 ここから岩々の下りで千枚岳へ。塩見の蝙蝠尾根の長大さに、圧倒される。南アの秋をかみしめながら、3ピッチで二軒小屋まで下る。12:40に到着したが、リムジンバスが出た直後で、「次は明日の朝だよ」と言われ、ガックリ。これから転付峠越えもシンドイので、一泊を決意する。

 下山報告後、芝生の上にマットを拡げ、チョコをつまみにして、ビールを飲む。犬と戯れ、無事下山を祝う。小屋は電灯もあって快適だった。炊事当番も、余った食料分配も「じゃんけん」で決め、最後の夜を騒ぐ。ハマが例の才能で、エビを教祖様に祭り上げ、ここに「エビ神教」を確立。あわれエビ神様は、細引で縛り上げられて、歓喜にむせんだのでありました。

【10月4日】快晴
 今日も、下山するのがもったいないほどの快晴である。8:00に東海フォレストのリムジンバスに乗り、南アの奥深い谷沿いの、うねうね続く林道を南下する。畑薙第一ダムあたりまで来ると、今やもう懐かしい茶臼・仁田岳の稜線が見える。ダムで静岡行きのバスを待つうち、終わったんだなあという感慨が、こみ上げてきた。

アルバム

T:茶臼岳から光岳往復

U:上河内岳から聖岳

V:赤石岳から悪沢岳

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