横尾右俣・北鎌尾根・槍ヶ岳・北穂高岳(北ア)

date 1997/8/12-14 晴、曇、快晴のち霧
コース 涸沢〜横尾右俣〜槍沢〜大曲〜水俣乗越〜天上沢〜北鎌沢出合(泊)〜北鎌沢右俣〜北鎌尾根〜槍ヶ岳〜槍岳山荘(泊)〜槍ヶ岳〜大キレット〜北穂高岳〜南稜〜涸沢
実働 第1日9h30m、第2日8h20m、第3日6h05m、計23h55m。
メンバー すうじい(単独)
概要 涸沢基点、横尾右俣・天上沢・北鎌尾根・大キレットを2泊3日で。
行程 →:山道、:溯行、\\:藪漕ぎ
【8月12日】 晴
涸沢6:50→横尾本谷・涸沢出合7:408:15二俣8:209:45右俣カール雪田9:55→10:40天狗のコル11:00→大曲12:40→13:50水俣乗越13:5515:30間ノ沢出合15:4516:15北鎌沢出合(泊)

【8月13日】 曇
北鎌沢出合5:507:50北鎌沢コル8:00→9:00 2749P 9:15→独標のコル9:35→10:50ニセ独標11:05→13:15北鎌平13:25→14:40槍ヶ岳15:10→15:30槍ヶ岳山荘(泊)

【8月14日】 快晴のちガス
槍ヶ岳山荘5:30→5:50槍ヶ岳6:25→5:45槍ヶ岳山荘8:00→中岳8:40→9:25南岳9:40→9:50獅子鼻9:55→最低コル10:30→11:10A沢のコル11:20→12:30北穂高岳12:35→14:00涸沢(泊)
記録  今回のメインエベント、涸沢を起点にして、北鎌尾根を二泊三日で、成功させることができた。悪天候が続いたため、下山日程が押し迫っての、ラストチャンスであった。十分に充実した、最高の三日間であった。

【8月12日】 晴
 しばらく、横尾への山道を下り、幾つ目かの、屏風岩からのゴーロ沢を下って、伏流した巨岩ゴーロの涸沢に出る。これを下降して、横尾本谷との出合に至る。本谷を徒渉して左岸に移り、二俣まで溯る。

 右俣に入ると、すぐに小滝となり、水量がやや多いので、結構苦労する。この後も、水量に悩まされつつ、溯る。最後の石滝を越えると、草地の平流となり、モレーンの丘に、水は消える。適当に藪を漕いで、この丘に取り付き、越えると、踏跡が現われ、これを辿る。この踏跡は、熊道も兼ねているらしく、ど真ん中に、新しそうな大きな糞があった。ちょっとビビるが、所詮はツキノワグマ、などと訳の分かんないことを呟きつつ、カールの中へ進み行く。踏跡不明となり、チングルマ等のお花畑を踏みながら、中央の雪田を目指す。

 雪田の岩の上で、休憩する。静かな別天地だ。ここからは、天狗のコルを目指して、次第に傾斜の強くなる、ガレた草地を登って行く。結構不安定な登りで、疲れた。

 天狗のコルで、また休憩。南岳から降りてきたオバサン達は、360度の展望が最高だったと、興奮気味だ。ここからは、一般登山道を辿り、氷河公園を経て、槍沢へと下る。槍ヶ岳が立派だ。槍沢沿いの下りは、炎天下でメチャ暑い。腹が減ったので、日なたで弁当を食う。大曲から、水俣乗越への登りに入る。暑い。下ってくるパーティが、二、三あった。やっと、水俣乗越に至るが、前回の時と様子が大分違う。荷物を下ろして、天上沢側を偵察し、作戦を練る。

 殆ど滑り台のような踏跡は、そのまま行くと、急なガレに滑り落ちてしまう。途中から、右手の草付を、アイスハンマー頼りに慎重に下降する。そのうち、かってのジグザグの踏跡が復活するが、すぐにガレに消えてしまう。右岸の藪の中に、新しいガレを見出し、これを下ることにする。崩れやすいガレを下って行くと、2250M二俣の、左俣の雪渓に出る。慎重に雪渓に乗り、二俣まで下って、右俣の水場で水を汲み、左岸の草地で小休する。兎に角、危険な区間は通過したようだ。

 この先、雪渓はやや急なので、滑落を警戒して、左岸の歩きにくいガレ草付を下る。雪渓が消えると、ゴーロに降りるが、浮き石だらけで、これまた歩きにくい。そのうち、流れに洗われて締まった、伏流ゴーロとなり、少し歩き易くなる。逆光の槍ヶ岳は、雲に隠れがちである。

 やがて左岸から、水量のある間ノ沢の流れが出合って、広河原となった。何回か徒渉を交えて、川原歩きを続けるうち、ケルンの積まれた、貧弱な出合に至る。どうやらここが北鎌沢出合のようだ。

 なるだけ平らな砂地を捜して、テントを設営する。流木を集めて、焚火の準備もしよう。気がつくと、100mほど下流に、人影とツェルトらしきものが見える。この時期、北鎌沢出合に、泊まる人がいない訳無いもんな。少し安心する。焚火を始め、コンロで夕飯を炊いて食う。そのうち、雨が降り始めた。一気に、暗い気分にさせられる。梅酒を飲んで、横になる。

【8月13日】 曇
 雨は夜のうちに上がり、曇りの朝を迎える。朝飯を炊いて、レトルトで食べる。どんよりした天気だが、降っていないから撤収は楽である。

 さあ、出発。北鎌沢の巨岩ゴーロを登る。やがて、水量の多い左俣を見送り、正面の右俣へ入る。水量の少ない沢は、直線的にグイグイ高度を上げる。時折、小滝を交えるが、ひたすらゴーロ状だ。かなり上部まで、チョロチョロ水が出ている。両岸はきれいなお花畑となるが、カメラを出す余裕はない。

 最後に二俣状になり、右は、両岸を切り立った壁に挟まれた狭い谷、左は、明るい開けた草付である。下から見上げると、判断し辛いが、右と決め打っておこう。振り返ると、下の方に、二人の登山者の姿が見えた。追い付かれてはならじ、と気合いを入れて頑張る。ツメはザレ混じりの草付となる。中央のカンテ状を登って、北鎌沢のコルに飛び出す。出合から、丁度2時間だ。

 ここでタルんでいたら、パラパラ雨が降ってきた。参ったな、こりゃ。雨具の上下と、ザックカバーを装着する。藪っぽい踏跡を登るうち、蒸れて暑いったりゃ、ありゃしない。途中で、雨具を脱ぐ。藪っぽい稜線を、千丈沢側にトラバースして、岩小屋状の右手の岩壁を、ハイマツ頼りにターザン登りする、イヤラシイ所がある。

 ここのハイマツ帯を越すと、天狗の腰掛けと呼ばれる、岩稜となり、眺めが素晴らしい。硫黄尾根や三俣蓮華方面の展望が良い、・2749で休憩する。ここからは、ブッシュが無くなり、北鎌尾根らしい岩稜帯となる。

 独標のコルまで下ると、正面の直登ルートはどこだかよく判らず、踏跡は、千丈沢側へ続き、岩壁の基部のザレをトラバースする。この辺り、とんでもない所に、ミヤマオダマキの大きな青い花が揺れている。危険を顧みず、撮影する。時折、ヤバイ個所が出てくる。

 トラバースの途中で、独標への踏跡と思しきものを辿ってみるが、かなり悪い所を登るので、引き返す。トラバースに戻り、振り向くと、後続の単独行者の姿が見えた。ザレたルンゼを横切って、先へ進むと、辿り着いたのは、ニセ独標と呼ばれるピークであった。やはり、先程の踏跡が、独標へのルートであったか。すごく残念に思われたが、戻る余裕は無い。

 単独の若者が追い付いたので、槍をバックに写真を撮って貰う。貴重な証拠写真だ。彼は、もう一人の単独行者と共に、湯俣山荘から、例の悪路を、10時間もかけて、北鎌沢出合まで来たという。天上沢の徒渉に、ザイルを使ったそうだ。この付近の山小屋で、働いていたことがあるらしい。

 ひとまず彼に別れを告げ、再び先行する。幾つものピークのアップダウンと、千丈沢側のトラバースを繰り返す。トラバースの踏跡が、先へ進むほど薄くなる所があり、ヤバイと思って引き返し、残置ハーケンとシュリンゲのある凹角状の岩壁の下で思案していたら、先程の彼の姿が見えた。大声でルートを相談する。「そこは、直登ですよ。以前、トラバースして、ひどい目に遭いました。」と教えてくれた。安心して、岩壁を直登する。

 その先のトラバースでは、1.5m程、大岩を抱えて、斜めにクライムダウンする所があり、高度感があって、怖い。ここでも、追い付いた彼に、ルートの確認をする。「確かに怖いですけど、トラバースしてから、その先のボロボロの白い岩を登って、尾根に出るんですよ。」と教えてくれる。経験者と遭遇できて、ラッキーであった。正解ルートと判れば、意を決して慎重にクライムダウンし、ボロボロ岩に取り付く。浮いた岩角を、だましだまし登って、小尾根を越す。

 ここで、岩々を踏んで稜線に乗るか、なおも千丈沢側に続くトラバースの踏跡を辿るか、迷ったが、「僕は、以前通ったことのあるルートで行きます。」と言う彼の後を追って、トラバースルートを行く。ここからは、特に難しい所も無く、体力勝負となる。濡れザイルと登攀具の分、重荷の彼に先行する。岩々から、ザレザレを踏んで、やっと北鎌平に出た。

 ここで、最後の休憩とばかり、行動食を頬張る。何故か、赤いザックが一つ残されている。追い付いた彼が、「どうしたんでしょうね、不気味ですね。」と言う。再び先行して、大槍の直下のチムニーまで登る。このチムニーは、重荷だと辛いが、何とか乗越した。彼はどうしても越えられず、ザイルと登攀具を岩の上に投げ揚げて、軽くしたザックを背負って登り、上から空身でクライムダウンして、ザイルと登攀具を回収した。最後は、少し天上沢側に回り込んで登れば、祠の横に出る。

 やったぞ、遂に北鎌尾根から槍に達したのだ。記念撮影に夢中なオジサンオバサンを無視して、しばし、北鎌尾根を振り返ろう。単独行の彼が抹茶ミルクを水に溶かして飲んでいたら、オバサンが「それはなーに?」と覗き込む。大ダルミしたあと、梯子から下り始める。我々は、鎖を使わずにクライムダウンするが、ある程度の渋滞は、我慢せねばなるまい。途中から、雨が降り出した。

 ツェルトを張る彼と別れ、槍ヶ岳山荘に到着する。アルファ米を炊いて、カレーで食う。日没の頃、雨が上がり、アーベントロートが綺麗だという声がして、カメラを持って飛び出すが、ちょっと遅かった。今夜は、布団で寝られる幸せ。

【8月14日】 快晴のちガス
 朝、少し雲があるが、やはり大槍まで登る。北鎌尾根は雲に半分隠れているが、祠の陰でしゃがみ込み、しばし見入ってしまう。三俣蓮華周辺の、北アルプス最奥の山々を眺める。少しずつ、雲海が高度を下げて行く。

 一通り撮影して戻る。アルファ米を炊いて、ふりかけで食う。小屋でミネラルウォーター500mlを仕入れて、キレット越えに向かおう。

 狭い幕営指定地を抜けて、縦走路を南下する。始めガスに包まれていた道も、次第に晴れてきて、たくさんの人が休む中岳山頂を過ぎると、明るい下りとなる。複雑な地形の巨岩帯を踏んで進むと、やがて尾根が狭まり、天狗原の氷河公園へ下る道の分岐がある。ここから下る人が、多いようだ。直進すると、南岳の細長い山頂である。ここまで約一時間半、荷を降ろして行動食を頬張る。単独の白人青年が、「ここはどこですか?」と登山者に尋ね、「ミナミダケ。」と納得していた。

 小屋を過ぎて、キレットの展望台である獅子ヶ鼻に寄る。ここからヘルメットを装着して、南岳の大下りである。一般路とは言え、慎重な下降を要求される。最低鞍部から長谷川ピークまでの登りが、結構疲れる。この辺りから、超初心者の茶髪若者グループがいて、難色であった。彼らは、岩稜でビビりまくっており、なかなか進めない。

 A沢のコルで休憩した後、茶髪パーティの後に出発して、飛騨泣き付近で追い付く。鎖場では、対向者もおり、仕方なく、交通整理を仕切る。連中は、「こんなおっかねえ所だなんて聞いてないよ。」と、ぶーぶー言っていた。彼らを追い越して、ペースが上がる。大分脚がホキってきたが、何とか北穂山頂に辿り着く。

 さすがに、東稜を下る元気は無く、南稜を下り始める。途中の鎖場をクライムダウンするまでは、気が張ってたお陰か、順調に下れた。その先は、時々足が滑ってしまう。ついに、道端で荷を降ろし、座り込んでしまった。最後の元気を振り絞って、涸沢まで下り切る。靴を脱ぎ、荷を整理して腰を下ろすと、満足感と心地よい疲労感が全身を覆う。今宵はぐっすり休んで、明日の蝶ヶ岳越えの下山に、備えるとしよう。

アルバム

朝日の当たり始めた北穂と東稜
横尾右俣カールと北穂・前穂
北穂と前穂北尾根
天狗原から槍ヶ岳
槍ヶ岳
同上
天狗原から槍ヶ岳
天狗池と槍
トリカブトと槍
イブキトラノオと槍
クルマユリ
水俣乗越から天上沢を俯瞰
高瀬ダム方面
槍ヶ岳と北鎌尾根
雪渓が消えたゴーロ
北鎌沢出合
野口五郎岳方面
硫黄尾根
硫黄尾根
ミヤマオダマキ
ニセ独標から槍ヶ岳
同上
大槍・小槍
槍ヶ岳山頂から槍穂高
笠ヶ岳
槍ヶ岳山頂にてブロッケン
ヨツバシオガマ
横尾左俣カールと大キレット
北穂高岳
横尾左俣カール底と北穂池ノ台地

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