コイボクシュシビチャリ川・カムイエクウチカウシ山・札内川9の沢(日高)

MR241 コイボクシュシビチャリ川・カムイエクウチカウシ山・
     札内川9の沢下降(日高)

date 1985/08/12-17 
コース 静内=せいわ橋〜コイボクシュシビチャリ川〜カムイエクウチカウシ山〜札内川9の沢下降〜札内川本流下降〜札内ヒュッテ〜ピョウタンの滝〜=中札内
実働 第一日:3h45m、第二日:8h10m、第三日:7h00m、第四日:4h10m、第五日:6h05m、第六日:2h20m、計:31h30m。
メンバー すうじい、Fs君
概要 810M三股先が函、9の沢カールでナキウサギ初対面。
行程 =:バス・タクシー・車・鉄道、→:山道、:溯行、\\:藪漕ぎまたは詰め
【8月12日】 曇のち晴
静内=6:50せいわ橋7:258:20左岸6m滑滝8:309:20小函出口9:5011:20左岸スラブルンゼ11:3012:00 810M三股BP(泊)

【8月13日】 晴
810M三股BP 6:107:50ゴルジュ大高巻き尾根上8:059:4012m滝下9:5511:25 1200M二俣11:4513:05 40mスダレ高巻き上13:2013:45(3:1)二俣13:5514:10大休止15:00\\16:25コイボクカールBP(泊)

【8月14日】 晴のち雨のち曇
コイボクカールBP 7:50\\8:55カムイエクウチカウシ山9:15→11:25 1732コル11:45→12:15 9の沢カール尻12:25→15:40 1000M付近BP(泊)

【8月15日】 晴
1000M付近BP 7:20函上7:50\\11:10函下13:1013:30 850M付近BP(泊)

【8月16日】 快晴
850M付近BP 8:409:00 9の沢出合10:1011:55 8の沢出合12:0514:15 7の沢出合林道終点16:00→17:50札内ヒュッテ(泊)

【8月17日】 快晴
札内ヒュッテ8:15→10:00ピョウタンの滝11:10→11:45=12:15中札内
記録  昨年夏の日高北部の沢に続き、今年は、日高中部の沢に入ることにした。当初は、ペテガリ岳からキムクシュベツ沢下降するという、かなり手強い計画を目論んでいたのだが、パートナーが、沢は初心者のFs君ということもあって、コイボクシュシビチャリ川からカムイエクウチカウシ山に登るコースを選んだ。出発前に私の都合で日程を遅らせることになり、Fs君に迷惑をかけてしまった。

 いやらしい草付の巻きや、コイボクカールの吹き下ろし、札内川9の沢の函下で釣り上げた尺物のオショロコマなど、今回もまた、印象深い山行を経験することができた。我々は知らずに入ったのだが、日高横断道路が、コイボクシュシビチャリ川と札内川7の沢を結ぶ形で、工事中であった。日高の自然を、これ以上破壊しないで欲しいと、強く願うのであるが、これが悲しい現実である。

【8月12日】 曇のち晴
 静内の駅前でオカンしていると、明け方、雨が降り出す。ただでさえ緊張しているのに、嫌な気分だ。タクシーで2時間弱、60キロ強の林道走行で、入渓点:せいわ橋に至る。幸い、雨は上がっている。

 川原に降り、シカシナイ沢を右岸に見送って、平凡な川原歩きを続ける。2P程行った、小さな函の入り口の釜で、魚影を見たので、出口の辺りで竿を出す。魚信なし。

 左岸に8mの滝を見て、沢は左に曲り、更に行くと、両岸美しい縞模様の明るいX字谷になって、函へと続く。3mCS滝は、右岸の外傾したバンドをトラパー スするが、ぬめっていて、やや悪い。大きな釜をもつ4x6m滝は、はっきりした右岸の踏跡を辿って巻く。ここから上流には、全く魚影が見られない。ナメが終り、平凡なゴーロを歩いて、テント2〜3張分のサイトのある、(1:1)の二俣に至る。ここが今日の幕営地、810M三股だ。

 早速、大量の薪集めをする。目の前の釜で、未練たらしく釣り糸を垂れるが、やはり魚はいないようだ。単独の遡行者が現れ、隣りにツェルトを張る。苫小牧のS氏で、まさか人に会うとは思ってなかったらしく、驚いていた。夜、焚き火を囲んで、北海道の山の話を、たくさん聴かせてもらう。

【8月13日】 晴
 S氏に少し遅れて、三股を後にする。荒れたゴーロを暫く行くと、沢は左に折れ、谷が狭まり、いよいよ核心部の近いことを感じる。右壁のハングした8m滝を右岸から巻くと、やがて、左岸は大岩壁、右岸は草付の、7mCS滝・12m滝白糸2条が、行く手を阻む。右岸の草付をトラパースして巻く。高度感あり、Fs君は大いにビビる。その先のゴルジュは、両岸ともに50m以上の垂壁のトヨ状のため、右岸のルンゼ状を登って高巻く。

 明るいナメ滝の上部にトラパースし、更にもう一つナメ滝を越えると、6m・5m・10mの函になり、左岸の草付交じりのトラパースで、これを巻く。Fs君が大いに難色を示したので、止むなくザイルを出すが、殆ど意味は無かった。15m滝は、右岸から巻き気味に登る。急な巨岩ゴーロを辿ると、両岸は威圧的に切り立ち、1200M二俣のゴルジュ帯の始まりだ。

 押し潰されそうな感覚に抗しながら、暗い谷底でザイルをつけ、すうじいトップで入口の12m左壁ハング滝に取付く。シャワーを浴びながら10m程登り、左壁にハーケンを打ち込んで中間ビレイを取る。落口の乗越しが、水流をモロに被って、いやらしい。続く4m滝トヨ状は、ホールドに乏しいが、オポジションのフリクションクライミングで、なんとか越えて、Fs君を引き上げる。

 二俣は、左俣が15m滝で落合い、右俣のゴルジュには、大岩が積重なって高度を上げている。15m滝の一つ右手にも、左俣の水流の一部が、7m滝を懸けており、この7m滝の右壁のバンドを、落口ヘ左上して、左俣に入る。なおもゴルジュは続くが、グイグイ高度を稼いで、20mトヨ・15mトヨを越え、右手から40m滝スダレ状の懸かる基部の岩盤の上に立つ。

 この滝は逆層のスラブで、取付けない。右岸から、枝沢がスラブ状の滝で出合い、明るい所だ。正面の草付交じりのルンゼに取付き、途中のブッシュで、ビレイを取ってザイルを出す。浮石の多いルンゼを慎重に登り、40mいっぱいザイルを伸ばす。あとは、僅かなターザン登りで、小尾根を乗越し、沢へ下降する。

 核心部は終わったとの思いからか、やたら明るい渓相になった。とは言うものの、20m滝を含め、未だ未だ、滝は続く。困難なものはなく、どんどん高度が上がる。(3:1)の二俣を迎え、水量の少ない右に入ったのが、敗着であった。小滝を幾つか越え、ポリタンに水を詰めてタルむ。

 エキノコツクス怖さに、行動中、水を飲まなかったので、喉がカラカラだ。昨年は、あんなにガブガブ飲んだのに。紅茶を入れて、行動食を頬張る。更に、小沢をツメてゆくと、左手にカールらしき地形が見える。参ったね。足指の爪を傷めたFs君を励まして、左へ大トラバースのアルバイトだ。やがて、待望のコイボクカールに、足を踏み入れる。

 予定では、9の沢カールまでのはずだったが、ここで時間切れ。サイトの跡があり、今夜の泊り場に決める。虫が多いので、蚊遣火用の這松の枝を集める。這松は少ないので苦労する。風に乗って、微かに水音が聞こえ、水場を探すと、少し上にあった。虫除けの焚き火をする。

 日暮れと共に、冷たい風が吹き下ろして来た。昨夜S氏から聴いた話:「日高山脈では、十勝側と日高側の温度が、まるで違う。稜線付近で泊るときは、必ず十勝側で泊れ。」を思い出して、「しまった」と思った。それにしても、すげえ風だ。這松の枝を2本ずつ束ねてポールにして、ツェルトを張り、中へ逃げ込む。すうじいのラジオが行方不明になり、気分は落ち込む。明朝、最後のタルミ場まで捜しに行くことにする。いつの間にか風は弱まり、虫も蚊取マットで追い遣る。ヒグマに怯えながら、遅い夕食を食べて寝る。

【8月14日】 晴のち雨のち曇
 朝、すうじい一人で源流を下降し、昨日の紅茶を飲んだ所まで行く。ラジオは見当たらない。やはり、三股のサイトに置き忘れたのか。急ぎ、登り返すが、1時間のタイムロスだ。

 撤収して、ガレた窪状を詰め、稜線の縦走終に出る。イワヒゲの群落が、這松の近くに見られた。左へ僅かな登りで、カムイエクウチカウシ山の頂に至る。振り返れば、ピラミッドが、その端正な姿を見せ、左下には8の沢カールが横たわる。右下には、コイボクカールの落ち着いた広がりが、「ああ、ゆうべはあそこに泊ったんだなあ」と満足な気分にさせてくれる。彼方には、中南部の山々が、どれが何という名であるかは判らぬが、連なっている。日高側は雲が沸起り、今にも崩れそうな雲行きだ。ペテガリ岳から縦走して来たという、単独のオジサンに、シャッターを押してもらう。

 さて、9の沢カール下降点の、・1782コルまで、主稜線を北上しよう。これが意外と手強くて、痩せた稜線の這松漕ぎを交じえ、たっぷり2Pかかる。途中降り始めた霧雨は、日高側からの冷たい風に乗って、容赦なく吹きつける。道が1mでも十勝側を巻いていると、暖かく感じられる。

 ・1732コルから、右手のカールヘ下る踏跡を辿ると、やがて累石地となり、「キュピ、キュピ」の声と姿が出没する。カール底で、ナキウサギの姿を、じっくり見た。あまり視力は良くないのか、我々が物音を立てる度に、耳をプルプルと震わせる可愛らしい仕草をし、あらぬ方向を向いて辺りを窺っている。

 カール尻から、9の沢の急なゴーロを下降する。北流していた沢は、滝らしい滝も無いうちに、次第に東へと向きを変える。全く平凡な沢である。オショロコマの姿を求める余り、群れを見たような気になって、1000M付近の小さな川原にサイトを決め、竿を出す。いない魚は釣れぬ。飯を炊こうと、飯ゴウの蓋を開けて見れば、なんとラジオが入っていた。まあ、良かった。今宵もまた、おかずが貧しいぜ。

【8月15日】 晴
 サイトから30分下ると、函がある。7m程の滝が2つ見えるが、その下は判らない。左岸の赤布のある踏跡こ取付く。30mほど急登すると、踏跡は消え、あとはターザン登りで、さらに高巻く。とんでもない藪の急登を続け、適当な所から右下ヘトラパースしてゆく。最後は、10m・20m・10mの懸垂下降で、10m滝CS3条の上に降りる。函の高巻に、2時間40分も費やした。函の中を見学に行くと、2m・7m・7mと続き、それで全てのようだ。10m滝は、残置ピンを利用して、右壁を右下へ15mの懸垂トラバースし、途中から左岸を巻く。

 どうやら、これが魚止めらしく、魚影が見えたので、竿を出す。いるわいるわ、オニチョロさえ探して針につければ、必ずヒットする。釜から滝へ、2mぱかりジャンプするオショロコマの姿に感動する。尺物を筆頭に、9尾キープして、意気揚々と先へ進む。

 850M付近にサイトを決め、サイトの前で、さらに8尾釣り上げる。さあ、今夜は久々の栄養補給じや。イワナ汁・塩焼き・味噌味の包み焼きの3通りで味わう。焚火を囲んでの夕食。これにあと、酒があったらなあ。細長い星空を見上げながら、この至福の時を、胸に刻むのであった。

【8月16日】 快晴
 昨日の残りのオショロコマを、イワナ汁にし、朝釣った6尾は、塩漬こする。楽しかったサイトを後にして、20分ほど下ると、倒木エンティの下に大きな釜がある。思わずザックを降ろして、竿を出せば、忽ち6尾釣上がる。あとは僅かな下りで、ぱっとしない9の沢出合だ。

 札内川本流は、魚影が無い。開けた川原歩きは、陽射しを遮る物とてなく、ジリジリ灼けつくような暑さだ。キネンベツ沢を左岸に合わせ、暫くすると、後ろを歩いていたFs君が「魚の腐った臭いがする」と言うので、すうじいのザックにカラビナで吊していた魚を、塩漬にしてしまう。この暑さじや、無理もないぜ。

 ひたすら忍耐の川原歩きは、まだまだ続く。8の沢出合を過ぎると、流れの中に、緑色の藻のようなものが見え始め、川原の水溜りには、ダボハゼみたいな小さな魚(カジカであろうか)がいる。本流の川原歩き4Pで、7の沢出合に至るが、何とここには、工事中の堰堤があり、林道が延びている。林道終点の木蔭に、銀マットを拡げ、2時間弱の大タルミをする。

 運動靴に履き替えれば、死にかけた足も大分楽だ。2Pの林道歩きで、コイカクシュサツナイ川出合の先にある、札内ヒュッテに到着する。単独のアンチャンがいた。ヒュッテの前の道路標識に、「クマが出ました。8月5日。」と、クマの似顔絵が描いてあるのが不気味だ。今夜も、ヒュッテの前で焚火をし、オショロコマの塩焼きとイワナ汁を味わう。花火と満天の星・天の川もまた、最後の夜を飾ってくれる。

【8月17日】 快晴
 札内ヒュッテを発ち、2Pの林道歩きで、ピョウタンの滝に着く。ここには公園があり、レトハウスで「若鶏の山賊焼定食」を食べる。気合を入れてヒッチを試みつつ、上札内へ向けて歩き出す。30分程歩いて、トラックに拾われ、中札内の駅まで直行。すぐに列車が来たので、名物「鶏の薫製」もビールも買えなかった。

 帯広から札幌に出て、食糧の買出しをする。次の山行「利尻山」に向かうべく、稚内行の夜行列車に乗込む我々であった。

溯行図

概念図

アルバム(ブログにLINK)
アルバム1:コイボクシュシビチャリ川
アルバム2:カムイエクウチカウシ山・札内川9の沢

MR242_ 利尻山(利尻)'85-08

MR243_ クワウンナイ川・トムラウシ山・石狩岳(大雪)'85-08

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